変なTシャツ

そそわより転載

 棚引く雲の流れは紅葉を散らしていく。撫で付けるような秋風が冥界を通り過ぎていく。ほんの少しだけひんやりとして、くしゅんと小さくくしゃみをしてしまいました。そんな、白昼の薄橙色を少しだけ混ぜ込んだ青空を私は飛んでる。

 青い生地に白が点描されたスカートがぱたぱたと裾を揺らしています。幻想郷に来てから空を飛ぶのにも慣れて、私はパンチラを気にせずに空を飛ぶようになりました。なんとも、女子高生としてはルール違反にもほどがあるなと反省はしているのですが。

 今日は冥界の白玉楼に用があります。宴会で何度か訪れたことはあるのですが、妖夢さんとはきちんとお話をしたことがなかったのです。同じ神霊廟の異変を解決した身としては、じっくりとお話がしてみたい。そんなみょんな思いつきでした。
 
「あ、早苗さん。こんにちは!」

 庭の桜を枝切り鋏で切っている妖夢さんがいます。けれど、いつものように白いYシャツと袖なしの緑の上着を着ていません。青い無地のTシャツを着ているようでした。

 そういえば最近、霊夢さん達と解決した月の一件以来、プリントTシャツが妖怪のなかでブームらしいのです。火付け役はへカーティアさんとクラウンピースさんだとか。
 
 確かに、Tシャツは安価で着心地もいいし、簡単にイラストをプリント出来るのが魅力的。河童が簡単なTシャツプリント機を造ってしまったと、自称社会派ルポライターの天狗の新聞で見たことがありました。けれど、染料が足りてないので、上手く稼働しているわけじゃないとか。
 
 もっぱら、外界から流れてきた比較的綺麗なTシャツを、香霖堂などで扱っているようです。流行りものに目がない幻想郷の妖怪たちはこぞって買っているみたいで。妖夢さんもその一人なのでしょう。
 
「こんにちは妖夢さ―――んっ!?」

 くるっと私の方に振り向いて、陶磁器のように白くて美しい顔で笑ってくれる。なんとも白百合のように儚げで可憐な。
 
 それはいい。それはいいのです。けれど……
 
「そ、そのTシャツは?」


 私は恐る恐る、Tシャツの文字にガクガク震えた人差し指を指して尋ねました。これは、とてつもなくヤバイオーラがTシャツから伝わってきます。例えるなら、ホウ酸と塩をうっかり間違えちゃう系のドジっ子娘が闇カレーを作り上げてしまうくらいに!
 
 ショッキングな私とは裏腹に、妖夢さんはほんのり誇張したお胸を張って見せます。胸を触ってみましたが私のほうが勝ってる。どうやら、このTシャツを大いに気に入っているようですね。すっごく自慢気です。
 
「これ、香霖堂で安く売っていたのを買ったんですよ! 横文字なんて珍しいから、つい! 香霖堂の主人が言うには、とっても"くうる"な意味が込められているようですよ!!」

 確かに、クールなのかもしれない。私はその言葉を鵜呑みにしようとしましたが、喉を絞って吐き出しました。おかしい物はおかしい。もう一度、その横文字をまじまじと眺めてみます。青い生地に白で描かれて強調されているそのデカデカと書かれている文字を。
 
"FUCK ME PLEASE!"

………どう見てもおかしいでしょ、これ!! なんて、変なTシャツなんだ!! 香霖堂の主人は意味がわかって妖夢さんに売ったのでしょうか。それなら乙女の純情を穢した、死刑すら生ぬるいレベルの有罪ですよ! 変な日本語のTシャツを着て喜んでいる外国人と同じです! "変態"とか"うんこ"とか、日本語がわからないけどなんとなくフィーリングがいいから買っちゃったみたいな!!

 ああ、私はなんてことを考えているんでしょう。なんてことを思い出しているんでしょう。ピュアな少女の私がこんなはしたない言葉を――けれど、目の前にあるのは紛れも無いはしたない横文字。乙女には許されない禁止単語。
 
 私も小学生の頃に、下ネタな横文字入れた服を着ている子を何度も見てきましたよ。英語がわかってきた頃に、あれは変な意味だったんだなって。
 
 大人だって、未だに恥ずかしい横文字を入れたTシャツを着ている人はいます。実際、意味がわからずに着ている人はたくさんいる。けれど、けれど! ここでまた、そんなものを見てしまうとは! なんか、自分のことのように恥ずかしい!
 
「えへへ、簡単に着ることもできるし、洗うのも簡単。幽々子様のお世話以外には、こうやってTシャツを着ているのですよ」

 ああ、目上の者にTシャツを着たままだと失礼かなっていうのは間違いじゃないです。それはそれで、色々なものが守られてますよ、妖夢さん!
 
 こんなにも無邪気に笑ってTシャツを自慢してくる妖夢さんに、私は本当のことなど伝えられるはずもなかった。だから、私はなんとも言いがたい表情で、強引に口の端を吊り上げ、表情筋をピクピクと痙攣させながら笑顔を作りました。
 
「と、とってもお似合いですよ!」

 私は嘘をつきました。本当に苦しい嘘。友情に反するような最低の嘘だ。過去の記憶も一緒にぶり返すような苦々しい味です。けれど、乙女のプライドが本当のことを言わせてくれない! 
 
 そんな幼稚園のお遊戯会くらいに演技が下手な私に、妖夢さんは騙されてくれました。なんて、ピュアな子なんでしょう。
 
「そうですか! よかった。まだこのTシャツを人に見せたことがなかったので、気になったのですよ! これなら、外で着て行っても大丈夫かなぁ」

 にへらと頬を緩ませ、自信がついたであろう妖夢さんはとても嬉しそうにしています。やはり、妖夢さんの純真さをぶち壊そうだなんて、臆病な私には遠回しに注意することも出来ませんでした。
 


 妖夢さんとお茶菓子をつつきながら、女子トーク満載で楽しく談話した後。私は迷いの竹林の入り口にたどり着きました。一人で竹林を歩いたら、迷って抜け出せなくなります。そこで、案内役として約束していた鈴仙さんと合流し、永遠亭に向かうことになっていたのですが――
 
「鈴仙さん……そのTシャツは」

「ああ、これ? 姫様が香霖堂で買ってきたものなの。『あんたもこれを着なさい!』って押し切られちゃって……」

 橙色の生地の真ん中に黒いゴシック体で"宇宙人"と書かれていました。自己主張が激しすぎて、見ているこっちが恥ずかしいです! なんですか、宇宙人って! 確かにそうだろうけど、チョイスが変ですよ!
 
「このTシャツ、なかなかいいでしょ!」

「ふえ!?」

 そんな私の動揺とは裏腹に、鈴仙さんはうさぎ耳をピンと立て、ふんっと鼻息を吹いて、ドヤ顔を決めていました。ほんと、鈴仙さんの小市民さがにじみ出ていましたね。
 
「文字が刻んである服なんて着たことが無いから新鮮だわ! やはり、外の世界は考え方が違うのね。オシャレだわ!」

「れ、鈴仙さんがそれでいいというなら、それはそれで」

 宇宙人だなんて、外の世界では突拍子もないけれど幻想郷には存在しちゃう。だから、幻想郷で"宇宙人"なんて書かれたTシャツを着てもおかしくないのでしょうか?
 
 どうやら、今日は変なTシャツに出会うことが多いです。他の妖怪たちも同じように、変なTシャツを着ているのでしょうか……ツッコミが追いつかなくなります。
 
 
 いつもの服を着ていた永琳さんに安堵しました。少しだけ、胸につっかえていた不安が取れました。軽く挨拶をして、お薬を頂きます。どうやら、神様に良く効く腰痛の薬とか。神奈子様が最近欲しているものなんです。神様なのに体が悲鳴を上げるものなんですかね。やっぱり歳かなぁ。
 
 少しだけお庭の軒下で休んでいると、しゃなりしゃなりと歩いてくる人がいました。その気品あふれるオーラは、私の庶民感覚を大いに揺さぶってくる。別格の人と言っても過言ではないでしょう。コレが噂に聞くかぐや姫かと私が振り向くと――
 
「あら、お客様? はじめましてかしら」

 薄手の黒い生地に白い明朝体で書かれている、"自宅警備員"の文字が私の笑いのツボをついてきました。
 
「ぶふっ!!」

 私は必死に口を抑えて笑わないようにこらえました。"自宅警備員"の文字が輝夜さんと絶妙にマッチしすぎている! いつもだらだらごろごろしているお姫様で評判の輝夜さんには、最高のTシャツといってもいい。あのTシャツはニート御用達で、着ている人を一度も見たこと無い私には破壊力抜群でした。
 
「人の顔を見て笑うとは、すこし教養が足りないのかしら?」

「ご、ごめんなさい!」

 けれど、姫としての気迫は凄まじく、私はすぐに背筋をぴんと伸ばしました。首筋をそっと舐められるような、ゾクッとするオーラが半端ないです。
 
「そのTシャツは……」

 今日、三度めのセリフが自然と溢れでる。私は恐る恐る尋ねると、輝夜さんは手を口に当て、蓬莱ニートとは思えない雛人形のような上品な笑顔を作って見せました。
 
「香霖堂で買ったものなんだけど、文字が面白いでしょ? 自宅警備員なんて、私のために存在する言葉だと思うの。ただ、働いていないわけじゃないのよ。働いていないんじゃなくて自宅を警備している、とても良い言葉だわ……実際、私がいるだけでこの永遠亭は守られているわけだし? お荷物じゃないのよ?」

 本当に守っているのは永琳さん率いる妖怪うさぎたちだと思うのですが。悦に浸っている輝夜さんをあれこれ言う勇気もないので、私は大人しく輝夜さんの暇つぶしの相手にされてしまいました。
 
 月由来の自慢の宝物の話を延々と聞かされたり。外界ではどんな遊びが流行っているのかなど、こと細かく聞かれてしまい、少しげんなりしました。


 
 今日の大きな目的は霧の湖を抜けた紅い大きな洋館、紅魔館にいくことです。
 
 以前から計画していた、参拝者の呼びこみを目的とした妖怪の山ロープウェイの出資者になってもらいたく、紅魔館の主であるレミリアさんを説得しに来たのです。彼女は非常にちょろいらしいので、大人しく金主になってもらいましょうか――
 
 
「詳しい話はお前の主に聞くわ。試みとしては面白いし、私も協力したい。妖怪や人間に名前を売るのも悪くはないわね。このエレガントで懐が大きい私にひれ伏すのよ!!」

 唇の端から見える長い犬歯を光らせて、妖艶な紅い悪魔はツリ目をギュッと絞って私を見つめます。そのカリスマと底知れぬ無邪気さをブレンドしたプレッシャーにビビりながらも、私は営業スマイルを忘れずにプレゼンしてきました。つかみはバッチシです!
 
 相手方が漢字やひらがながわからないということで色々難儀しましたが、なんとか伝えられることは伝えられたと思います。今度は英文の資料を用意しなきゃ。英語の辞書って人里で買えるのかしら。
 
 咲夜さんが用意してくれたダージリンの入った白いカップを、口にゆっくりと傾けます。茶葉の味に雑味がなくて、非常においしい。私が外の世界で飲んでいた紅茶とは全く違います。淹れ方次第で全然変わるものなんですね。こうやって、誰かと優雅に紅茶を飲むなんていつ以来でしょうか。
 
「咲夜、そろそろお客様のお帰りよ」

「はい、お嬢様……」

ブフゥウウウウウウウウ!! ゲホッ! ゲホッ……

「うわ! な、なによ!?」

 あまりの驚きに口に含んでいた紅茶が、勢いの強いスプレーのように吹き出してしまいました。プロレスで言うところの毒霧ですね。乙女のマナーとしてはレッドカード即退場レベルの行為です。それがダイレクトにレミリアさんの顔面へ――
 
「ご、ごめんなさい!!」

 こげ茶色の水滴にまみれたレミリアさんはムスッとした表情で宙に手をかざすと、ぱっと現れたタオルを掴みました。どうやら、咲夜さんが時間を止めて渡してきたらしいです。そういえば、紅茶が机に置かれた時もそうだったから、咲夜さんのTシャツの柄が分からなくて……
 
「まったくもう!」

 レミリアさんはゴシゴシとタオルで顔を拭うと、私を獅子のように獰猛な目つきで睨んできました。

 だって、咲夜さんのTシャツが反則なんですもの……

 咲夜さんのホワイトブリムのように白い生地に、赤い流れるような達筆で書かれている、"お嬢様、だいしゅき!!"の文字。これは、ひどい……
 
「まあ、私は寛容だしぃ? 今回の件は許してあげるわ」

「すみません……」

 私は申し訳ない気持ちと言い訳をしたい気持ちを混ぜっ子しながら、ぶすっと頬をふくらませているレミリアさんに謝罪して、部屋から立ち去って行きました。
 
 黙々と正門まで一緒に歩いてくれる咲夜さんに私は恐る恐る尋ねました。あの自己主張の激しいTシャツはいったいなんなのかと。聞かずにはいられなかったのです。
 
「そのTシャツは、いったいなんなんですか!?」
 
「ん? これ? これは無地のTシャツに刺繍で縫って作ったものよ。なかなかいかしているでしょ?」

 そうか、自分でTシャツ作っちゃう人もいるんですね。その努力は面白いし、評価したいです。けれど、言葉のチョイスが酷すぎるでしょ!
 
「さすがに、そんなもの着てたら他の人に変な目で見られませんか?」

 居ても立ってもいられない私はズケズケと咲夜さんに言ってみることにしました。
 
 日本語の文字が分からない西洋生まれのレミリアさんやフランさんには大丈夫でしょう。けれど、魔道書や学術書を嗜むパチュリーさんにはバレバレじゃないでしょうか? 美鈴さんはどうなんだろ? 中国語は分かりそうでも、日本語はどうなんだろ。
 
「お嬢様方には意味が分かりませんし、意味がわかったところで私の気持ちが伝われば、さらにゾクゾクしますわ。そう、これは高度な羞恥プレイなのよ」

 わかってやっているところに戦慄しました。悪意というよりも、遊び感覚でやっているところに大人っぽさを感じます。でも、アブノーマルな性癖をさらけ出されて、心のなかで後ずさりしてしまいました。これが、マゾヒズムというやつでしょうか。
 
 なんでしょうこの変なTシャツラッシュは。これも、へカーティアさんのTシャツをバカにした、私の罪なのかしら……
 
 
 
 夕日が立ち上り、そろそろ夜が訪れようとしています。八百屋さんとかが閉まり始めたので、大忙しで買い物を済まさなければなりません。
 
 その道すがら、私は大通りで子供に囲まれた小傘さんをみつけました。なんだか、わいのわいのと楽しそうです。
 
 大人には幼稚な妖怪だとバカにされて、子供には怖くないと笑われる。人を襲うこともそんなにないし、妖怪なのに人里に馴染んでいる。とってもいい子なので私は小傘さんが好きです。
 
「こんばんはー!」

 私が声をかけると、子どもたちが蜘蛛の子を散らすように帰ってしまいました。私って避けられたのかなと思いましたが、どうやら夜の帳が降りてきたからですね。
 
「おお、早苗! どうしたの?」

 紫色のださい、ベロンと口から舌を伸ばしきった唐傘を肩に背負って、いつものようにラフな感じで話しかけてくれました。数少ない、私の気軽に話せる友達です。傘はださいけど。
 
「その、Tシャツは?」

「ああ、これ? ナズーリンが賽の河原で拾ってきたものなんだよ。プリントしてある動物がとっても可愛いでしょ? 子供に人気なんだー」

 また、変Tじゃないかと、私は肩を落としました。これで何度目でしょうか。
 
 その、嬉しそうに着ているTシャツの真ん中には青くて丸い狸のようなアニメキャラ。本当は狸じゃなくてネコ型の、国民的人気の青狸さんが! まだ、幻想入りしちゃいけないお方がなんで……
 
「けっこう可愛いキャラだね! わちきの子供心をくすぐるというか。ちびっこたちにも人気だし、うん、すっっごくいい! わちき、気に入ったよ!」

 くるっとターンを描きながら、私にTシャツを見せびらかす小傘さん。カコンと下駄が楽しそうに鳴り響きます。
 
 アニメキャラのTシャツなんて、なかなか着れないなと思うのは私だけでしょうか。いや、ディ○ニーやスヌ○ピーやらはかろうじてOK? 私の価値観が崩れ去っていきそうです。
 
「ちびっ子にも人気だし、これで驚かせられたらいいのになぁ」

 楳図○ずお先生のTシャツとかなら、まだ芽があるかもしれませんね。けれど、本人が着てて楽しそうなら、それでもいい気がします。実際、かわいいし、癪ですけど似合っています。
 
 
 
 すっかり夜が更けて、妖怪の山にいるカラスたちは静かになり、フクロウたちがホウホウと鳴いています。鈴虫の声がいい塩梅で幻想の夜には持って来いです。
 
 鳥居をくぐってまっすぐに社務所へと戻りました。買ってきた野菜をエコバックから取り出して、一息ついていると、食卓の方から二柱の呼ぶ声が聞こえてきました。
 
「おかえり! 早苗~」

 私はぐっと座っていた畳から腰を上げて、お二方がいる縁側へと歩いて行きました。どうやら、ちょっとだけ酔っ払っているみたいですね。
 
「おっす、早苗! 薬はどうだった?」

 ひらひらと手招きしている、頬を赤く染めた神奈子さま。その横には柿をかじって満足気な諏訪子さま。
 
 なぜ、なぜあなた達も変Tを着ているんですか!!
 
「そのTシャツどうしたんですか!!?」

 このセリフを何度吐けばいいのでしょう。そろそろ、言いたくなくなってきました。

「ああ、これ? なかなかいいだろ?」

 諏訪子様は白いTシャツに描かれたイラストがわかりやすいように、裾を掴んで引き延ばしました。子供が醤油をこぼした箇所を見せつけるように、無邪気に。
 
 そのTシャツにはきったない落書きが描かれていたのです。神奈子様も同様で。蛙っぽいなにかと、蛇っぽいなにか。ミミズが這ったような、下手くそななにかです。
 
「なんでそんなもの着ているんですか! 神様の威厳が!!」

 なんで、今日はこんなに変なTシャツと出会うのでしょうか。やはり、へカーティアさんの呪い? すみません、変なTシャツヤローとかいった私が愚かでした。だから、変なTシャツを流行らせないでください……
 
「なかなか、ヘタウマな感じがあっていいだろ?」

 神奈子様がガハハとおちょこを高らかに持ち上げて笑ってみせる。ぐいっと豪快に飲んで見せる姿に、残念な感じが半端ないです。コレも全て、変Tが――
 
「そんな変なTシャツなんて、着ちゃいけないんですよ!!」

 大声を張り上げてしまって、私は後悔しました。別に、そこまで必死になることじゃないんだけれど、私の美的感覚が許せないのです。現代っ子としての感性が許せなかっただけです……
 
「これは早苗が10のころに作ってくれた大切なTシャツなんだよ」

「え?」

 諏訪子様がヒステリーを起こしている私をなだめるように、やさしく言い聞かせてくれました。
 
「最近、Tシャツが流行ってるって聞いてな。タンスから引っ張り出してきたんだよ。せっかくだから、私達も着てみようって。とっても懐かしくてなぁ」

 神奈子様が大きな満月を見上げるように、記憶をたどっておられました。月光に照らされる、偉大なる二柱がとても心強く感じます。

「そうだね。一生懸命作ったって、あの頃の早苗が張り切ってさ。それがすっごく嬉しかったんだよ」

「確かに、変なTシャツかもしれないけれど、味があっていいだろ? 歴史があるんだよ。喜んで着ている物が他人からは変だと思われても、それを着ている本人にはなにか思いが込められているんだよ。服ってそういうものだろ?」

 確かに、その人のセンスが変でも、その人は自信を持ってファッションを着ている。それに対して変に思うことはあれど、悪いことじゃないんですよ。
 
 へカーティアさんに言ってしまった、『変なTシャツヤロー』という言葉も、本当は口に出しちゃいけないことだったんだなと私は痛感してしまいました。
 
 勝手に、自分の価値観を押し付けちゃって。そうだ、そうなんですよ。
 
「そうですね。そうですよ! あはは、私ったら……」

 今日一日にあったことはへんてこりんなことばかりでしたが、今思えばどうだっていいことのように思えます。着ている本人が嬉しいんだったら、それでいいじゃないですか。とても簡単なことに気づけない私はなんて愚かなんでしょうか。
 
 
 
 私も外界から持ち込んだ、リーサルウエポンとして保存しておいたTシャツに腕を通して、紺色のスカートを履いてくるりと姿見鏡の前でポーズを取ってみました。
 
「ふふ、とっても懐かしい!」

 昔のことを思い出しながら、Tシャツにプリントされているものをまじまじと見つめます。子供の頃に帰ったようなノスタルジーを感じて、少しだけ悲しい気持ちになりました。
 
「早苗……」

 どうやら後ろで見ていた諏訪子様がとても渋い顔をしています。あの柿は渋柿だったのでしょうか?
 
「その歳で、セーラー○ーンのTシャツはどうかと思う」

 デカデカとTシャツにプリントされた、可愛いアニメの女の子の顔。月に変わってお仕置きしちゃう、素敵なセーラー服美少女になんということを! 私の世代を直撃する、思い出のキャラTシャツを!!
 
「これは変Tじゃないですぅうう!!」

 それで外に出るなよと、二柱に深く釘を差されてしまいました。
 

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