後の祭り

PIXIV、東方SSコミュ
(ONO)氏プロット交換企画より
お題は「秋の夜長の過ごし方」

熱燗にごり酒氏のプロットから書かせていただきました
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5768305


 “揺り籠から墓石まで”の名で知られる道具屋霧雨店。人の生活に必要な道具から、嗜好品まで備えている大きな道具店だ。人里の歴史を語るには不可欠と言ってもいいほど古い、由緒正しいお店。
 私がその家で暮らしていたのは、魔法を知る前のおチビだった頃。その時は両親とも仲良くやっていたし、一人娘だったもんだから、大事な箱入り娘として育てられてた。
 別に悪い気分じゃなかった。大人の腰ぐらいの高さしか無い身長で店の中を駆け巡り、やってくるお店の人に頭を撫でてもらったり笑顔を貰う。胸の高さまで身長が伸びた時はお店の手伝いをしてお客に笑顔を振りまいていてた。
 本当に、悪くなかったんだよ。そんな人生を生きていれば良かったのかなって思うこともある。人間としては及第点の生き方が出来ただろうに。
 けれど、悪いことに私は魔法に魅入られてしまった。この鬱屈した世界を探究心だけで生きていく存在。自らが魔に目覚めることで、この世界の広さを知ることが出来る。
 そんなお伽話みたいなことを両親が聞いたら怒られてしまった。いつもニコニコしてたのに、鬼の表情で怒ってみせる。私は最初、これはいけないことだと自分で何度も反芻したけれど、やはり魔法のもつ力に抗えなかった。
 親父と仲違いしたのはほんのちょっとのきっかけだった。香霖のツテでマジックアイテムを蒐集してたことがバレたのだ。
『世の中の理に反するものを人間が使ってはならん!』
 その主張はあながち間違っちゃいない。マジックアイテムは奇跡の効果を与えるけれど、その代償が存在するからだ。代償すら払えない人間は命を狩りとられる。だから、何も知らない人間が扱っていいものじゃなかった。
 霧雨店ではマジックアイテムを扱わないという方針は私の方針とは仲違いしてしまったのだ。
 だから、私は魔法使いになるために、家を飛び出した。家を飛び出して、魔法の森で住居を構え、私は一人になってしまった。
 霧雨魔法店なんて名前を家につけてるけど、どうも仲良くなれない親へのあてつけにしかなってない。
 

 今日、アリスが人里の収穫祭に参加しようと浴衣姿で誘ってきた。赤い牡丹と大きな鶴が描かれた紺色の浴衣。アリスの金髪にマッチする組み合わせだ。
「その浴衣は自分で作ったのか?」
 アリスはぎこちない様子で袖口を掴み、自慢するように広げてみせる。満点の答案用紙を親に見せる子供みたいな感じだ。
「反物屋さんで生地を買って、それを自分で裁縫してみたわ。縫い方は違うかもしれないけれど、なかなか様になってるでしょ」
 きゃっきゃとその場で回ったりして、浴衣の着心地を堪能している。私も昔は桜の模様の着物に茶色い袴とオシャレをしていたもんだ。命短し恋せよ乙女っていうのかな。はは。
「いい生地だな」
「妖怪鶴が織ったものだから、最高級品よ」
 ああ、だから鶴が描かれているのかと納得。妖気を感じるのもそのせいなのか。鶴の機織りも近代化が進んでるらしいな。
「魔理沙の分も作ってあるから、ね!」
 ずいっと、アリスは褐色のトートバッグから赤い着物を手渡してくる。私はそれをじっと見つめて、手ではねのけた。
「いいよ。収穫祭には行きたくないんだ……」
 不思議そうな顔でアリスが見つめてくる。とても端正のとれた美しい顔でずるい。私が男なら、そのまま顔を近づけてキスぐらいはしてやったかもしれない。
「あら、どうしてかしら? 神社のお祭とかには参加してたじゃない」
 首を可愛くかしげるので、私は言わないわけにも行かなくなった。本当にずるい。
「親父が出資者なんだよ……その祭りは」
「あー、そういうこと」
「だから、行けないんだ。ごめんな、アリス」
 私は椅子にどかっと座ってため息を吐く。この時期はそのせいで憂鬱になる。だって、賑やかなのに参加できなくて1人ぼっちとか虚しい。仲間はずれだ。
「大人しくきのこ鍋でもしてるよ、1人で」
 最後の方は少しだけ力を込めてみせた。無意識だったため、ちょっと気まずい。だから、霊夢にキノコのやり過ぎだって言われるんだ。
「でも、だからといってお父さんに会う確率は少ないでしょ?」
「そりゃそうだが……」
 アリスは赤い浴衣の肩を摘んでその場で広げてみせると、ニッコリと笑ってみせた。ほんと、とても嫌らしい笑顔だ。
「折角作ってあげたんだから行きましょう。命令よ。ばれないように、徹底的におめかししましょう!」

 浴衣なんてものを着たのはいつぶりだろうか。よく覚えていない。股がすーすーとしてぎこちなくなる。箒が食い込んでなんか気持ち悪い。だって……
「なあ、アリス。お前はパンツ履いたままか?」
「私は履いてるわよ」
「じゃあ、なんで私は脱がされたんだ!」
 股をもじもじとしながら、私は大きな声をあげる。人里までの道中なのでまだよいのだが、上を見上げられたら見えているかもしれないじゃないか。
 そもそも、浴衣はパンツ履かないって言い出したのはアリスで、それで勝手にパンツを脱がせられて。本人は履いたままとか、いじめか!
「それにしても、その浴衣似合ってるわよ。まるで別人ね!」
 話をそらされた。
 確かに、この着物の着心地といい、柄といい、私の好みだ。星の海をテーマとして描かれた白黒青の星形の柄は、鈴虫の鳴き声がよく似合う秋の夜を彷彿とさせる。
 少しは綺麗になれたのだろうかと乙女心に考える。頭に結われた夜会巻きも天然パーマの私には合わない気がしてならない。
 でも、アリスは最上級のおめかしはしてあるはずよ! と謎の太鼓判を押してくれた。
 そりゃ、1時間も化粧をやったんだ。可愛くなってなけりゃこまるってもんだ。
 これで、親父にもばれなきゃいいかもな。
「だから、そういうんじゃなくてだな!」
 そうぶつくさ言いながら、私は人里の近くで降り立つ。人里の人間がどんちゃん騒ぎをしている最中に飛び込んでいく。
 
 屋台には金魚すくいやお面売、イチゴ飴など色々揃っている。私はその中で日本酒をいっぱい引っ掛けた。酔ってないと、やってられなかったからだ。
 秋は夜が長い。その分、季節の祭りの中では一番長く、一番騒げるだろうよ。一日三秋てな具合にどうだろうか。みんな、こういう時間は永遠に感じていたいもんだぜ。
 祭りで騒ぐ野郎どもに女子供。みんな、陰鬱とした人里の空気を晴れ晴れとさせるために楽しんでいる。笑えるうちに笑っておかないと、人間は渋い顔しかできないものさ。
 アリスは予め用意された大通りの一角で人形劇をしている。各々菓子を持った子供の相手をしていた。きゃっきゃと笑う子供にふふふと優しく笑うアリス。なんとも微笑ましいが……一緒に回ろうとか言ったくせに、なんなんだあいつは。
 町中をお神輿が闊歩する。金ピカの唐破風の立派なやつ。
 みんな元気に秋の恵みを感謝していた。「穣子様、静葉様、ありがとうございます!」なんて。弱っちい神様も使いようなんだな。
 屋台の椅子に座りながら、ぼーっと街の動きを見ていた。お酒も回ってきたし、口を半開きにしながらぼーっと。目をうつろにして。
 お神輿はやがて、博麗神社の方向へ向かっていく。霊夢の仕事は巫女だ。こういうお祭りの時には大忙しで、まじめに仕事をこなすもんだから偉い。
 反して、私は自由気ままに魔法の研究をしている。私のモットーは宝物を探していくことだ。魔法だって私のなかでは宝物の一部で、他人が宝を持っていれば盗んででも自分のものにしていく。宝物が沢山あれば、私は満たされるんじゃないかって幻想を持ってるからさ。
 なんとも、妖怪じみたというか。質の悪い盗賊よりもひでえ生き方だ。江戸川乱歩の怪盗でももっとモラルがあるはずだ。
 どーしようもない私は、どーしようもなく生きている。けれど、努力だけは怠らなかった。だって、努力すら怠ったら私には何も残らないからだ。本当に、私のアイデンティティーが崩れ去る。脆いものだ。
 私はぐいっとおちょこを傾ける。ひよこ色の明かりがぼんやりとしていて、私もからだが気だるくなった。夜風がびゅうっと頬をなでて、ひんやりして気持ちいい。
「馬子にも衣装ってのはこういうことをいうんだな」
「老い木に花は咲かないんだよ、じじい」
 最高潮に達した歓声の合間を縫って、なんとも懐かしい声が右隣から聞こえてきた。小さい頃にいつも聞いてた、憎たらしいしゃがれ声だ。
「でもまあ、似合ってるぞ」
 言いたいことだけ言って、親父は去っていく。後姿は昔見た時とは違い、こじんまりとしていた。髪は白髪、手はしわだらけで汚く、暗色系の服を着込んでいて。年の差を感じる。
 折角化粧をして大人っぽい魔理沙を演じていたはずなのに、親からみたら私はおチビのままの魔理沙ってわけか。
「そうさ、私は少女のままなのにな」
 親父はだんだん老けてる。そりゃ、魔法使いでもなんでもない人間なのだから、老けるもんだ。年月が経てば死んじまうだろう。
 親父が死ぬ前くらいには減らず口も叩かずに済めばいいんだけどな。私の反抗期も収まったらいいのに。
 やるせない私はぐいっと熱燗を口につけておもいっきり傾けた。口からこぼれてる。なんとも辛い、大人の味だ。
 秋の夜長は始まったばかり。でも、過ぎ去るのは一瞬だ。

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