龍驤弁

 昨日聞いたラジオドラマについて駆逐艦の子と話してた時や。伝説の艦娘、三笠が東郷平八郎閣下率いる艦隊の元、バルチック艦隊を撃破するお話。艦娘にとっては憧れる武勇伝やね。
 公園のウッドデッキの前でドラマの内容を反芻してたんや。娯楽が限られる鎮守府ではこういう情報はとっても大事なんよ。だから、一緒にシェアする楽しみってもんがあるんよね。
「バルチック艦隊が来るまでの砲撃の練習は功を奏したわけやね。荒波に揉まれても砲撃を当てられるようにしたってわけ。うちは軽空母やから関係ないかもしれないけど、そういう先を見越した準備がだいじなんよ」
 ふんっと鼻息を吹いて年長者ぶってみた。うちは結構、物語にのめり込む方やから、得意気に語りたい方なんや。それがお姉さんぽくないよって言われたらそのとうりなんやけどね。
「ねえ、龍驤はん?」
 駆逐艦の子たちに偉そうにしとるうちに黒潮がすくっと手を上げた。
「龍驤はんの関西弁ってちょっとおかしないですか?」
「ちょっと、何言ってるの!?」
 不知火が黒潮を止めようとしてたけど、黒潮は構わず続けた。
「いや、龍驤はんの関西弁って、イントネーションからちょっとちゃうんですよ。ところどころ標準語がまじっとるというか」
「黒潮! 失礼でしょ!」
 黒潮の指摘に他の駆逐艦の子らは気まずそうにしとる。けれど、そういうことを言われるのは初めてやないんや。
「ええんや、不知火。これにはわけがあるんよ」
「わけ……ですか?」
 一体何なんだろうとみんなが耳をそばだてるので、うちは胸を張って言ってみせた。
「うちのは……龍驤弁なんや」

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大井っちは不器用だ

 星空が隠れた夜に、二段ベットの下から語りかけてきた。大井っちの甘ったるい声だ。私は聞き慣れてるれど、阿武隈が言うにはとっても媚びているらしいね。私はそんな感じしないんだけどなー
「ねえ、北上さん!」
 ちょっと興奮気味なのか、大井っちの声は少し上ずってる。なにか楽しいことでもあったのだろうかといつも思うけど――
「北上さんと同じベットで……グフっ!」
 相変わらずというか、大井っちは自分の世界の私に向き合うのが好きみたいだね。私だけど私じゃないみたいな。
 だって、大井っちが求める私って理想の彼氏みたいなものだし。少しだけ荷が重い感じがするよねぇ。
「私も大井っちと一緒に寝られて楽しいよ」
 何気ない一言だった。けれど、本心であるのは間違いないね。私も大井っちといると飽きないし、姉妹として仲がいいと思ってる。
「そんな、北上しゃん……ぶはっ!!」
 何かが盛大に吹き出した音がした。一体何なのかはこの際考えないほうがいいのかもしれないね。
「どうしたの、大井っち? 大丈夫?」
「大丈夫! 大丈夫です、北上さん!!」
 本人が大丈夫と言ったら大丈夫なんだろう。大井っちはいろいろ問いつめられると切羽詰まって困るタイプだから、ここは聞かないほうがいいんだよねぇ。
 なんだか、はあはあと生暖かい息がこちらにも届いてきそう。すっごく、息を荒げている。大井っちが興奮しているみたい。
 でも、私は気にせずに体をゴロンと横にして眼をつぶることにした。布団の生暖かさが脊髄を刺激して眠りへと誘ってくる。
 阿武隈は媚びているっていうけれど、私にはそう感じない。だって、大井っちはすっごく無理をしているんだもの。
 

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C89艦これ短編集 サンプル

C89で委託させていただきます。コピー本です。
2日目東P-26a マンボウは美味しい白身よ
他二話(那珂・蒼龍)含んでおります
委託させていただいた黒崎まんぼう氏には感謝

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◯如月アテンション

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うちの陸奥はポニーテールのようです

 予め肩まで伸ばした栗色の髪を後頭部から靭やかな指で掻きあげて、髪の一本一本が宙へと弾ける。サラサラと流れ落ちる枝垂れ髪を貝であしらった桜色の髪留めで留めて、一本の髪の束を作る。馬の尻尾のような一本の髪の束を。私に見せつけるように。


 うちの陸奥はポニーテールのようです


 私の初恋は藤の柄の紅い着物を着た艷っぽい女だった。茶色い袴と革のブーツを履き、凛と咲く乙女の様相だった。
 初雪の降る薄暗い曇天の商店街で、しゃなりと赤銅色の唐傘を持って歩く女に、中学生だった私は心を鷲掴みにされた。
 黒い学生服に身を包んだ私には憧れのような、高嶺の花のように思えた女。きっとお近づきにさえなれないのだろうとため息をつく。
 じっと私は麗しきその横顔を眺めていた。頬を赤らめぼおっとしていた私に気づいたのか、その女はニッコリと妖艶な笑みを浮かべ、釘付けされた私の目線から過ぎ去っていた。

 その女の名前は陸奥。当時では珍しい艦娘の一人だった。

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暁がキャベツを育てる理由

 人差し指を差し出したらね、強く握ってくれるの! 赤ちゃんってひ弱な感じなのかなって思ってたけどそうじゃなくて、結構力が強いものなのよ。やっぱり、赤ちゃんも生きているから力強いんだわ!

「あぅ……うー……」

 セミの声が少し鬱陶しい葉月のまっただ中だったわ。商店街を歩いてたら、喫茶店で赤ちゃんを抱いている若い女の人がいたの。赤ちゃんにアイスクリームをちょっとだけスプーンで掬って食べさせていたわ。暁はレディとしてダージリンを嗜んでいたんだけど、可愛らしい声で鳴く赤ちゃんに興味が湧いちゃったの。だから、母親の方に声をかけて赤ちゃんを見せてもらったわ。

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